最近の新聞、テレビではよく医師不足など医療サービスを供給する体制の問題がよく話題になっていますが、同時に医療費の増大という医療経済に関する話題もよく取りあげられています。平成18年度の国民医療費は約33兆円、国民1人あたり年間に約26万円の医療費がかかっており、しかも高齢化、医療技術の進歩によりその金額は毎年、約1兆円規模で増加し、日本が世界に誇るべき国民皆保険制度の存亡の危機もささやかれるようになりました。
そこで政府は平成14年から20年までの過去4回の診療報酬改定でマイナス改訂を行い、この医療費の増加を抑制すべく施策を実施しました。
H14年 | H16年 | H18年 | H20年 | |
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本体部分 | -1.30% | 0.00% | -1.36% | 0.38% |
薬剤部分 | -1.40% | -1.05% | -1.80% | -1.20% |
全体 | -2.70% | -1.05% | -3.16% | -0.82% |
指数(H10:100) | 97.6 | 96.6 | 93.5 | 92.7 |
(日本医師会HPより抜粋、追加)
平成10年を100とすると平成20年の指数は92.7となり10年間で診療報酬は7.3ポイント減少したことになります。この影響はとくに返済期間10年、20年といった長期借入金を有する医療機関にとって影響が大きく、例えば10年前に病院建物を20年返済の銀行借入金で新築した場合、この10年間の診療報酬のマイナス改訂による影響で収入が減り、金融機関へ返済条件変更の申し出を余儀なくされるといったケースもでてきています。
人口の減少、競合医院の増加、診療報酬のマイナス改訂等々、医療機関を取り巻く環境はこれからもさらに厳しくなると思われます。何も対策を打たなければ収入は減っていく時代になり、さらにこの大きな変化に対応できなければ医療機関として存続できなくなるということも考えられる時代になりました。
そうした厳しい環境のもとで、健全な経営をしていくには成り行き任せではなく、院長先生の夢と想いを込めた「経営計画」に基づいた経営が必要となります。
「経営計画」とはどのようなもので、どのように作成していくのでしょうか。「経営計画」というとただ数字が並んでいるものと思われますが、
- ①今、その地域において自院はどういうポジションにいてるのか、役割はなにか。
- ②地域から何を期待されているのか又、求められているのか。
- ③自院が出来ることは何か、何をしたいのか。
を確認し、そして - ④これからどの方向に向かっていくのか、その方向はニーズにあっているのか。
- ⑤事業として成り立つのか。
を確認するツールであり、院長先生の想いを職員や地域に伝える仕掛けが「経営計画書」です。
経営計画書には期間ごとに短期経営計画(1年)、中期経営計画(5年)、長期経営計画(10年)と分けることが出来、それぞれ目的が異なります。
まず、短期経営計画では次期の目標損益、資金繰り計画を策定します。その数値は現状の実績を踏まえ、勘定科目ごとに詳細に計画します。そして、目標達成のための行動計画を策定します。自院の存在意義や院長先生が目指されるべき理想の状態を明文化したものがその病医院の理念であり、その理念のもとに次期の目標や課題を明確にし、その目標を達成するためにとるべき具体的な行動計画を文章にしてまとめます。
中長期計画は自院の将来の進むべき方向を示します。未来の目標を明示して、その目標達成のために今、何をなすべきかを明らかにします。数値については短期計画のような詳細な数値ではなく大まかな目標数値でも構いません。中長期計画の作成に当たって注意してもらいたいことは、計画が何年後かの売上や利益目標だけの計画になっていないか、ということです。その目標を達成することで病医院、院長先生はじめ職員、そして医療というサービスの提供をうけるその地域は現在とどのように変わっているのか、どんなメリットがあるのかが関係者に明確に示されていなければその経営計画は文字通り計画倒れになってしまいます。
それでは経営計画をたてることで病医院経営にとってどんなメリットがあるのでしょうか。はじめにも書きましたが、医療制度改革や診療報酬のマイナス改訂など近年、病医院を取り巻く環境は非常に厳しい状況にあります。一生懸命診療しているのに以前より収益が下がってきたと感じておられる先生方もおられると思います。
しかし、すべての病医院の業績が右肩下がりかというと決してそうではありません。このような厳しい状況の下でも増収、増益を成し遂げておられるところもあります。そうした病医院に共通していることは、院長先生の熱い想いが明確な経営理念となり職員に浸透しており、その理念の下、掲げられた目標を達成すべく経営戦略がたてられ、それをさらに日常行動に落とし込んでいくという一連の流れが確立され、理念を具現化する経営計画書に基づいた経営がなされています。「どうせ計画なんかを作ってもその通り行かない」という意見があります。計画通り行かなくていいんです。計画は目標を掲げてあるので、現実との差異は生じて当たり前。要はその差異が生じる原因を突き止め、その対策を打てるようになることが重要です。
経営計画を作成することのメリットは、
- ①経営理念の再確認(未策定の場合は策定)ができる。
- ②自院の現状の課題と今後の課題の整理ができる。
- ③自院の将来の方向性を明確にできる。
ことであり、これらをとおして具体的な行動計画が策定され、職員と一つの方向を目指して動き始めたときに、組織は活性化して業績は向上し始め、行き当たりばったりの成り行き経営から脱却することが出来ます。
TKC会員が関与させて頂いている病医院には、毎月1回は事務所からお伺いして月次巡回監査を行っています。会計処理、税務処理に誤りがないかを専門的な立場から確認した上で、前月までの業績を翌月中には院長先生や事務責任者の方に報告させて頂き、前年同月などと比較して何か異常な数値は出ていないか、もしあればその原因は何かを確認して頂きます。
そういう意味では月次巡回監査を受けるということは、定期検診を受けることと同じ意味があります。病医院も人間の身体と同じで、どこか悪いところがあっても早期に発見して対策を打てばもと通りに元気な企業体として活動を続けることが出来ます。
しかし、たとえば前年と比較して収益や利益が下降傾向にあるなど異常を示す数値がでているにもかかわらず、それを放置すると取り返しのつかないことにもなりかねません。人間も病医院も定期的に検診を受け、以上があれば早期に治療する、早期発見、早期治療が健康維持には肝要です。
そして月次巡回監査を通して正確な業績把握は、経営計画を作成する上で大きな役割をします。未来の数値を把握して行くにあたり、まず現状把握が大切です。現状の理解が出来ずに目標となる未来図は描くことが出来ませんし、作成したとしても絵に描いたもちになってしまいます。
TKC会員事務所には継続MASというシステムがあり、これは病医院で使って頂いている医業会計システムMX2と連動しており、正確な月次決算をもとに、翌期の経営計画書の作成をTKC会員事務所がサポートします。
経営計画書は本来、病医院自らが作成されるものですが、経営計画書を作成されたご経験のない院長先生や、事務責任者の方にとってはどのように作っていけばいいのか、なかなか前に進まない現実があります。そこで私達、TKC会員事務所では院長先生に次の5つの質問をさせて頂きます。
①次期の目標利益、②次期の医業収益の伸び率、③次期の薬材費・委託費比率、④次期の給与の昇給率、⑤次期の従事員数
この5つの質問に答えて頂ければ、次期の基本経営計画書は出来上がります。
もちろん、その基本計画書をベースに利益計画、資金計画へとより詳細で緻密な事業計画書を作成することが出来ます。この計画書を作成する過程で経営基本方針、重点課題、行動計画等の再確認、策定をすることも出来ます。
以前のように開業すれば必ず利益はでる、という時代ではなくなりました。また今は黒字を維持できているが、このままではこれから先はどうなるかわからない、といわれる院長先生方は多くおられます。
そんなときに先生方と一緒に未来を考え、堅実な病医院経営をサポートさせて頂くのがTKC会員事務所です。