1. 月次決算とは
「先生の診療所の直近の月次決算書はいつ頃出来ていますか?」と質問すると、「社保や国保の入金が2ヶ月後だからそれからでないと出来あがらない」と答えられる先生がたくさんおられます。ひどい場合には、何カ月も前のものや前年の決算書を出して来て、「今年の利益はまだ分からない」というような場合もあります。
医療機関においては従来、
- ①経営が安定している。
- ②業績の把握を単に税務申告のためだけとしか見ていない。
- ③信用があり銀行はいつでもお金を貸してくれる。
という理由から毎月の業績把握の必要性が低かったことがあります。
しかし、医療を取り巻く外部環境の変化は大きく、診療報酬の改定、競合相手の増加等々により、しっかり変化に対応できる経営していかなければ事業を継続できなくなる時代がすぐそこまで来ています。
月次決算書を作成することの目的は、自院の経営実態を把握し、事業の効率化、問題点の改善といった自院を守るためにあります。
私達が毎年、健康診断を受けていると最近は各検査項目の数値が時系列に表示され、年度ごとに比較できるようになっています。そして一番端には正常範囲内の数値が表示され、一目で異常値の確認が出来るように工夫されています。月次決算書もまさしくこの健康診断の検査結果と同じです。対前年比や他院と比較して自院の経営状態がどういう状況なのかを把握し、もし悪いところがあっても早期発見・早期治療で、もとの健康状態に戻すことができる、その判断の基になるのが月次決算書です。
2. 精度を上げるため
医業経営に役立つ月次決算書は
①翌月中にはできていますか?
経営者が自院の財政状態が今どういう状況にあるのかを把握できるようにし、その結果に対してどう対応していくかの判断や意思決定を行うことができるようにするためには、その情報はまずタイムリーなものでなくてはなりません。そのためには「記帳を適時に行い、月次決算の実施する」ことが必要になります。記帳を適時に行うということは、お金やものの出入りが発生した都度、帳簿に記録することで、間違いや記載漏れが防げ、正確な月次決算書作成の基礎になります。
銀行融資を申し込む際に、決算時期から数ケ月経過していると必ず直近の月次決算書の提出を求められます。その際にすぐに提出できる医療機関と出来ない医療機関では信用力に差が出ても当然です。古いデータしか出せないということは内部管理が出来ていないということで、外部からの信用力も落としてしまうことになります。
②発生主義で作成されていますか?
月次決算書は発生主義で作成されていなければなりません。収益について、窓口負担分は日々計上し、保険者等への請求分は入金時ではなくその請求時に計上します。医薬品、診療材料、検査代についても支払時ではなく、請求書が届いた時点で計上します。減価償却費や賞与等も年間費用を見積もり、その月割額を計上していきます。
③在庫の計上はされていますか?
院内処方で医薬品等の在庫金額が大きい場合、月末の在庫金額を月次決算書に計上する必要があります。そのためには実地棚卸を行わなければなりません。棚卸を毎月するとなると大変と思われるかもしれませんが、医療機関では通常医薬品はその銘柄ごとに保管されており、慣れてくると大きな時間をかけずにすることができます。また毎月在庫を把握することで、期限切れ等のロスを未然に防ぐこともできます。
タイムリーで正確な月次決算書を作成することで的確な経営状況の把握ができ、またその現状を基に将来の計画を立てることができます。
例えば患者数が増えてきたので職員採用を検討する場合、まず月次決算書の経費項目を変動費と固定費に分けます。 変動費とは売上の増減に伴って変動する費用で、診療所の場合、医薬品費、診療材料費、検査委託費等が該当します。 固定費とは売上の増減に関係なく発生する費用で、一定の人件費、リース料・家賃、その他の費用が固定費になります。
変動費と固定費の額を把握できると、目標売上高を策定することができます。
仮に固定費が月額500万円で、売上に対する変動費割合(売上に対する医薬品費、診療材料費、検査委託費の割合)が20%のとすると、利益が0円になるための必要売上高(これを損益分岐点といいます)は500万円÷(1-0.2)=625万円となります。診療単価が5,000円とすると、625万円÷5,000円=1,250人となり、利益が0円になる場合の一月当りの患者数は1,250人となります。
これを応用して、仮に月額20万円の職員さんを採用すると、520万円÷(1-0.2)=650万円。650万円÷5,000円=1,300人となり、一月当り50人の患者さんが増えないとペイしないことになります。
月次決算書を作成することで、このように数値に裏付けされた採用計画や設備投資ができるようになります。
また、銀行や税務署といった外部関係者からは決算書、申告書の信用度が高まり、例えば融資申込の時にはスムースな資金調達ができるようになります。税金面でも、決算の数ケ月前には今期の業績予測もできる為、節税対策や納税資金の確保も事前に実施することができます。